佐々木
2016年3月13日の東京芸術大学最終合格発表から2週間経ったわけですが、造形学校芸術学科生、今回は芸大1次通過者全員が最終合格を果たす快挙。しかも全員が現役合格。今日集まってもらった皆には、なぜこのような成果が現れたのか?という辺りを語ってもらいたいと思っています。よろしくお願いします。ではまずは定番の質問から。今の心境は?
岡
これからが楽しみという気持ちです。さっそく埼玉県美術館の「原田直次展」と西洋美術館の「カラヴァッジョ展」を見て来ました。
飯沼
私も、これからが楽しみという気持ちです。高校が芸術系志望者がほとんどいない学校だったので、本当に大学生活が楽しみです。
近藤
一浪するつもりだったのに合格してしまった、というのが本音です。せっかく芸大に入ったので、いろいろな学科の人たちと交流出来たらと思っています。
内田
私も一浪するつもりでしたので、合格と分かった瞬間何も考えられませんでした。今は、とりあえず試験勉強から離れたことをいろいろ積極的にやっていきたいと思います。
佐々木
続いていきなり核心をついてしまう質問なのですが、なぜ「現役合格」できたのか?
飯沼
高校2年生から造形学校に通っていたので、芸大に合格できるレベルの高さを肌身で感じていました。先輩方を目標に努力したのが現役で合格できた理由だと思います。
近藤
私も高校2年生の時から造形学校に通って、合格者のレベルを早いうちから知っていたのが勝因だと思います。要領が良くないのは自分でも分かっていたので、携帯のアプリを使って勉強時間の配分や調整を行い、入試に必要な勉強が偏りなくできるように工夫しました。
岡
センターが3教科と、国立難関校としては少ないので、とにかくこの3科目でダッシュしようと思いました。(結果は600点満点中560点)。センターの過去問はあまり解く気がしないので、早慶の国語・英語・日本史の過去問を10年分以上解きました。芸大の論述試験については「直前講習」での追い込みに賭けたのが勝因です。
内田
高校が美術系で、学科の勉強が不足になりがちなので、高校2年生になった時からセンター試験の国語と英語の問題を少しずつ解いていました。それもあって、高校3年生になって世界史の勉強に集中できたのも勝因だと思います。(結果は600点満点中572点)
佐々木
今、「直前講習」での追い込みという話が出ましたが、今回の「直前講習」は本当に皆の集中力が凄かった。その集中力をどうして発揮・持続できたのか?
近藤
センターが終わってから高校の授業もなく、造形学校に通うだけの毎日になったので嫌でも集中できました。もちろんストレスも溜まりましたが、家が近かったので歩いて通学したのがストレス発散になって良かったと思います。高校の同級生とは敢えて連絡をとらず、自分の生活ペースを確立することに努めました。
飯沼
周囲の人たちからも「理想が高い」と言われましたが、理想を追い求めたのが集中できた理由だと思います。昨日よりも良い答案を書くために、まずその日その日の授業を完全に理解しようと努めました。また以前の自分の答案を繰り返し見直して、弱点や理解の曖昧な点を何度も確認しました。毎日没頭していると自然と集中できるものです。
岡
造形学校の授業が終わり次第そのまま図書館で3時間程復習し、家に帰ったら夕飯を食べて寝る、という自分なりのペースを作れたのが、集中できた理由だと思います。自己管理が最も大切だと思っています。
内田
家が京都なので、「直前講習」中は祖父母の所から造形学校に通いました。早寝早起きですので、そのペースに付き合って生活することで集中力も養えたと思います。また、ついついネットサーフィンに時間を費やしてしまうので、「直前講習」の間は「ネット断ち」しました。毎日の授業に集中できる環境を作れたことが現役合格に繋がったと思います。
佐々木
これもまた定番の質問ではありますが、芸大現役合格の為の勉強法があれば教えて下さい。
岡
センターも芸大対策も、まずできるだけ多くの問題を解くことだと思います。「直前講習」の問題量は半端ではないので、それをまず自分で解き解説授業を理解する。それが唯一の勉強法ではないのでしょうか。
内田
自分自身の勉強法を確立するためには、できるだけ志望校を決めて、できることから始めるのが大切ではないでしょうか。私の場合、国語・英語は中学生の頃から好きでしたし、漠然と国立大学の人文系を志望していたので高校2年生になった時からセンターの過去問を解き始めました。勉強方法は人それぞれだと思いますが、できるだけ早めにできることから計画的にやっていくことが大切だと思う。
近藤
私は本当に要領が良くないので、高校2年生から造形学校に通って、先輩方の勉強の仕方を学ぶことから始めました。芸大に合格した先輩たちの答案例をじっくり読むと、例えば世界史の教科書のどこをどのように把握しているのかが分かります。また先に述べた通り、時間の管理をしっかり行うことが勉強法の基本だと思います。
飯沼
私もやはり量をこなすのが、センター及び芸大対策の基本だと思います。センターは国語・英語・世界史すべて全過去問を解きました。それでも点が取れきれず、その分芸大の論述で挽回しようと思いましたし、センター試験を2度も受けたくないという気持ちにもなりました。それが現役合格の原動力だったのかもしれません。でも芸大対策に関しては、造形学校の授業に全力を投じるのが唯一の勉強法です。
佐々木
造形学校芸術学科の授業では、様々な美術作品を意識的に見てゆくわけですが、年間を通じて最も印象に残った作品を敢えて1点挙げるとすれば、なんでしょうか?
飯沼
パウル・クレーの「鼓手」ですね。アブストラクション絵画も、これから研究テーマにしていきたいと思いました。
近藤
葛飾北斎の「たかばしのふじ」。これから絵画を見てゆく際、自分の中で基盤となる作品です。あともう1点挙げると、縄文時代の「遮光器土偶」。原始時代の感受性に強い印象を受けました。いろいろな作品を偏見や先入観を捨てて見ることの大切さを学んだと思います。
岡
川端龍子の「天橋図」。雪舟の絵も印象に残っています。風景画や水墨山水画に対する関心が芽生えてきました。
内田
私の場合「デッサン」選択でしたので、造形学校で描いたモチーフで最も印象に残ったのは「アリアス」です。うまく描けたわけではないのですが、記憶に残りました。
佐々木
では、最後の質問に参りましょう。皆、将来は何をやりたいと現時点では考えていますか?
飯沼
中学生の頃から美術館学芸員になりたいと思っていました。今、ますますその気持ちが強くなっています。
近藤
私も学芸員(キュレーター)にあこがれて芸大を志望しましたが、現時点では美術史の研究職もいいなと考えています。教職の単位も積極的に取得したいと思います。
岡
僕もキュレーターが第一志望です。新設された大学院(国際芸術創造研究科)にも興味があります。
内田
私は学部を卒業したら出版関係に就職したいと思っていたのですが、一年間造形学校で勉強してみて、美術史の研究職にも関心を持つようになりました。大学院に進学したいと現時点では考えています。
佐々木
今日皆のはなしを聞いていて思ったのは、現役合格はやはり偶然ではないということです。自己管理術、特に時間をいかに有効に使うか、というところに皆とても自覚的ですよね。こうして芸大という難関を一発でクリアした経験は、皆のこれからの人生の土台となることは間違いありません。芸術、芸術学においても、いや芸術においてこそ、大切なのは意思と計画性。行き当たりばったりでは何も生み出せない。どうか幸先の良い学生生活を!今日は長時間どうもありがとうございました。
座談会を終えて
造形学校芸術学科の専任講師になって24年間、芸大合格者合わせて現役合格は一年たりとも絶えたことがありません。しかし、合格者全員が現役生というのは初めてのことです。今回の合格者たち、個々の能力が高いのはいうまでもないながら、一人一人、確固たる信念を感じさせられました。同世代の頃と自分と比較してみても、その意志と気魄は並々ならぬものがあると思います。皆の信念は決して間違っていない。初心貫徹のために迷わず頑張って欲しい。私の出来ることは、言わば「後押し」だけなのです。新年度もまた、出来る限りの力を込めて新芸大生誕生のための「後押し」に徹していきたいと思っています。