藝大合格者座談会
 
佐々木先生江口さん 青木さん 平田さん 中西さん
佐々木
本日はお忙しい中、お集まりいただいて、ありがとうございます。僕が1992年度から造形学校芸術学科の専任講師になってから26年の間に、今春で200人目、201人目の藝大生が誕生しました。今回はそれを記念して、今春の藝大合格者と、かつて造形学校から合格した、藝大4年生の中西さんと2年生の青木さんにも参加いただきました。ぜひ先輩から新入生へのアドバイス、新入生から先輩への質問も交えて充実した座談会を、と考えております。よろしくお願いします。

一同
よろしくお願いします。

佐々木
さて、まずは新入生のお2人に現在の気持ちから話していただきましょう。江口さんからどうぞ。

江口
私は1浪で合格しましたので、正直、合格できてほっとしています。上智とICUにも合格したのですが、何が何でも藝大に、と思っていましたので、ようやく肩の荷が下りたというのが率直な感想です。でも藝大での新生活に対する不安も同時に芽生えてきましたので、今日は先輩方に色々とお聞きしたいと思います。

平田
現役ですんなり合格できてよかったと思いました。慶應にも合格したんですが、はじめから藝大に行くことしか考えていませんでした。藝大が駄目だったら1浪しようか、でも受験をもう1回やるのも嫌だし、どうしようか、と思っていたので、藝大に入れて本当に良かったです。

佐々木
特に「センター試験」って、2度とやりたくないよね。本音を言うとね。

平田
センターもですけど、受験勉強全般が大変ですよ。

佐々木
藝大の2次対策もそうでしたか?

平田
はい。やはり、いろいろアンテナを立てていないといけないので、大変でした。

青木
私はすごく楽しかったです、藝大の2次対策は。だから藝大に入ったら、勉強以外のことに忙殺されるので、なんだか受験生の頃よりかえって疲れたように思えます。

佐々木
「藝祭」の準備とか?

青木
はい。私の学年は特に自己主張が強い印象を受け、体力も神経も消耗した感じでした。

中西
その辺は学年によりますよ。私たちの学年は比較的まとまりが良かったです。私自身は藝祭実行委員をやるぐらい、のめり込んでいましたが、3年生になった時、しまったとおもいました。

佐々木
と、言うのは?

中西
3年生になると専門分野の特別講義を受講するようになりますが、大学院生も一緒に授業を受けるので、とにかくレベルが高い。1・2年生の間に「概説」の授業をベースに、もっと勉強しておくんだったと後悔しました。

佐々木
これはさっそく、江口さん平田君に対する有効なアドバイスですね。

中西
でも、「藝祭」の準備を通じて友達もできますし、委員会活動を通じて他科の知り合いも増えるし、有意義な時間でした。なんだか言い方が曖昧ですけど、「1・2年生のうちは大いに藝大生として楽しむのが良い」かと思います。

青木
私はどうも学園祭みたいなものが中学生の頃から好きじゃないんです。でも藝大の講義は楽しいですよ。1・2年生のうちに受講する「概説」は、結構専門的な内容を扱いますし。

佐々木
それは昔からだね。この講義は全然「概説」じゃないんだよね。私はそれをよく知っているから、造形学校では受験対策を兼ねて、藝大の美術史・美学「概説」の「前段」となる部分を皆に習得してもらうように心がけて、授業しています。

青木
確かに造形学校の授業の続編を聴いているような気がしました。ああ、背景はあの辺りだな、あの続きか、という感覚。だからより一層講義が面白く感じるんです。

江口
藝大の授業が楽しみになってきました。

平田
一方で、実技の講義はどんな感じで行われるんですか?

青木
1年生では、前期は版画実習、ドローイング、写真実習をやり、後期は油画の作品模写と自由制作をやりました。版画実習ではシルクスクリーンと銅版画、木版画、リトグラフの4つから1つを選択できます。私はシルクスクリーンを選択しましたが、不器用なので版下作りにすごく手間取りました。版画科の助手さんが気長に手伝って下さったのでとても助かりました。また制作を始める前に、版画科の先生が「大学美術館」で所蔵作品を見せて解説してくれます。ウォーホルのシルクスクリーンの作品を実際に見て、改めてその技術や表現にびっくりしました。写真はカメラにフィルムを装着して撮影し、暗室で現像するところまで教わりますので、写真って本来はこうしたものだったんだと如実にわかりますし、写真作品を見る目も変わりました。

中西
2年生では日本画と彫刻を学びますが、この実習もまた作品を見る目を大きく変えてくれます。彫刻はまず水粘土の塑像と石膏取りをやり、そのあと石彫・木彫・金属彫刻の選択実習に移ります。私は木彫を選択しましたが、この時も制作前に「大学美術館」で実際の作品を見ながら、彫刻科の先生のお話が聞けます。また制作中、保存修復の大学院生が一緒に同じアトリエで制作してくれて、その方が3メートルの丸太から「一木造り」の仏像を彫り上げていたんです。それを間近で見ていたので、是非「一木造り」の仏像を研究したいと思うようになりました。それもあり、卒論のテーマを「神護寺五大虚空蔵菩薩像」としました。

佐々木
日本画実習で絵巻の上げ写しの模写をやったのをきっかけに、絵巻物の研究に進んだ人も少なくなかったな。僕も藝大で実習を受けなかったら、膠絵具で絵を描くなんてことは生涯なかったと思う。

江口
語学の講義はどうですか?

中西
必修科目は英語の他にイタリア語、フランス語、ドイツ語があって、それぞれ初級・中級・上級の順で受講します。伊・仏・独語のどれか1つは上級まで履修するのが卒業条件なのですが、上級は芸術学科の先生が主宰する「原典講読」に振替可能です。西洋美術の研究をするなら、どちらも受講しておくべきです。

江口
藝大に合格してから、ドイツの法律を専門とする学者さんとお話をする機会があり、その方から日本人だからこそできる西洋の社会・文化の研究がある、と伺いました。また、文化・芸術の研究には常に「比較文化学」の視点が必要なので、語学の壁を乗り越えて西洋の研究を行うことの意義も強調されていました。まだ具体的にどの地域を研究するかは決まっていないのですが、伊・仏・独語のいずれかは、藝大で「上級」と「原典講読」の両方を履修したいと思っています。

平田
留学は皆さん、されるんですか?

中西
西洋美術史を専攻した場合、だいたいは修士課程か博士課程でヨーロッパの大学に留学します。日本東洋美術史専攻の場合、まれに中国や韓国に留学するケースもあります。

佐々木
この段階で平田君は、研究テーマがあるのかい?

平田
う~ん、なんだろう?まだ全然決まってないです。

中西
それが普通だと思いますよ。私はたまたま小学生の頃から仏像が好きだったんですが、藝大に入って1・2年次の実技実習や2年次での古美術研究旅行で、本当にいろいろな作品を見たり、芸術学科や実技科の先生方のお話しを聴いたりする中で、卒論のテーマが自然と決まってきました。先程お話しした「神護寺五大虚空蔵菩薩像」ですが、この作品をテーマにしたい、と3年生の秋頃、卒論担当の先生に相談に伺ったところ、じゃ、まず見てきて下さい、とのことで、拝観期間でもないのに神護寺に連絡を入れて下さり、実際に拝観することができました。そういったこともあり、あとには引けなくなってしまったんです。

佐々木
昔から芸術学科の先生方は皆、一流の研究者たちなんだけれど、自分たちの後輩を育成することにも熱心なんです。だから勉強しがいがある。ところで、青木さんの研究テーマは?

青木
私は今秋が「古美術研究」なので、そこでまた新しい発見があるかなとは思うんですけれど、今のところは宗達か光琳の作品を、と思っています。光悦にも関心があります。中学生の頃からこの辺が好きなんです。

佐々木
う~ん。中西さんといい、青木さんといい、さすがですね。

江口
私はどちらかというとヨーロッパに関心があります。ロシアや東欧圏の美術作品も好きです。

平田
僕は中学に入った時、美術部の先輩の作品や文章に本当に驚いたんですよ。その先輩は東大に進学しましたが、絵を描いたり、あるいは絵についていろいろ知ったりすることは、その人の人間形成にとって本当に大事なことだと思ったんです。それが芸術学をやろうと考えたきっかけでした。

佐々木
毎春、この造形学校から将来有望な藝大生が巣立っていったわけですが、中西さん、青木さんはもちろんのこと、200人目、201人目の藝大生となった江口さん、平田君も、先輩たちに負けず劣らずの資質を備えた人材です。これはお世辞でも何でもなく、僕の本音です。これから藝大でますますその素質を磨いてください。 今日はみなさま長時間お疲れさまでした。どうもありがとうございました。

中西 青木
では、藝大でお会いしましょう。

江口 平田
はい。よろしくお願いします。

佐々木
いいなぁ。僕も頑張ります。まずは202人目の藝大生誕生のために。皆さんも頑張ってください。

座談会を終えて
造形学校芸術学科の専任講師になって26年間、東京藝大への現役合格は、1年たりとも絶えていません。 今春合格した江口さん、平田さんは勿論ですが、これまで造形学校を巣立っていった生徒たちは、みな確固たる信念を持っているように感じています。同世代の頃と自分と比較してみても、その意志と気魄は並々ならぬものがあると思います。来春合格を誓う皆さんの信念も決して間違ってはいません。その志を強く持ち、迷わず最後まで初志貫徹して頂きたいと思います。私にできることは、いわばその「後押し」であると思っています。 新年度も、私がこれまで指導してきた経験・知識すべてを使い、皆さんの「後押し」をしていきます。知識や経験よりも、まず必要なのは「藝大に行きたい気持ち」です。志高い皆さんの受講をお待ちしています。
(代々木ゼミナール造形学校 芸術学科主任講師 佐々木泰樹)