代々木ゼミナール造形学校で基礎科から真摯に絵画制作に向き合ってきた油画科の鈴木葉子さんがこの春、東京藝術大学油画専攻に合格しました。大学に進んだ後も、鈴木さんのさらなるご活躍を油画科講師一同期待しております。
今回は合格再現作品と今年の出題傾向、鈴木さんの代ゼミでの3年間の軌跡を追うことで藝大・美大油画科の受験に合格していくために必要な力とはどういったものなのか、代ゼミ油画科に通っている人はどのような1年を過ごしているのか、「絵」に興味を持っている皆さんへ少しでも参考になれば幸いです。
代々木ゼミナール造形学校 油画科主任講師 佐藤亮介
1次試験:素描(木炭紙)5時間
①「表・裏」【条件】「表・裏」をテーマとして、配布されたモチーフを使用し自由に描きなさい。
【モチーフ】トランプカード(箱付き)/白紙カード(箱付き)
②「偶然・必然」【条件】「偶然・必然」をテーマとして、配布されたモチーフを使用し自由に描きなさい。
【モチーフ】サイコロ/サイコロ(無地)
2次試験:絵画(F30号キャンバス・スケッチブック)17時間
「私」「社会」「自然」から一つ言葉を選び、「謎」と組み合わせて自由に発想して作品を制作しなさい。
これまでの出題の傾向は、1次・2次試験のどちらかで具体的なモチーフが課され、もう一方ではより個人の発想を引き出すことを重視した言葉・文章のみの出題または大学構内取材で自らモチーフを探す出題か、とてもシンプルなモチーフを出題することが多く見られました。出題文やそれに伴うモチーフ自体に、絵画制作にあたって思考重視またはヴィジュアルを重視した返答だとしても、ある程度遊びを利かせられる「枠」というものを与える傾向にありました。しかし直近5年の出題ではその境目が無くなっていく傾向が強いです。出題文章のみの課題はよりその枠を大きくし選択幅を広げている印象です。具体的なモチーフを出題したとしてもそれ自体とは関連の無い言葉を構成させて枠を広げるよう促す内容や、反対にそのモチーフに直接的に関連する言葉・条件・指示を加えてある一定の枠の中で作者がその枠を広く解釈することで内から押し広げることを期待するような内容となっています。そのような流れの中で今年の出題は偏りなくバランスをとった内容といえるでしょう。
1次試験では大半の人がゲームで扱った経験のあるトランプやサイコロをモチーフとして、課されたテーマも直接的に関係しています。明らかにそのモチーフを使うシーンが頭に浮かぶなかで、どの程度逸脱し自分の絵とするかが試されたので、近年の中では制限がやや強めです。
2次試験は言葉の選択で発想の大きな入口を三分割し、一度その入口を通ってからもう一度間口を広げるような言葉を組み合わせることで、絵画の入口を感じさせつつも具体的にどのような方向性に向かっているのか作者の考えの幅の広さを窺い知れるように意図したものと考えられます。「何でもありの自由さ」というより「やさしい枠組みがある中での自由さ」を意識しているのでバランスをとった出題内容といえます。