代ゼミ造形学校「芸術学科」から今春も優秀な人材が多数芸大に進学しました。毎年恒例の「入試再現作品」HP掲載、今回は造形学校で2年間頑張って、東京芸大・芸術学科に合格した金子真理さん(都立青山高校卒)の作品を公開します。芸大芸術学科の入試の中でも、ひときわめてユニークな「ディスクリプション」。代ゼミ在籍時から一味違う記述を積み重ねてきた金子さんの資質と努力が、今春の芸大入試で大輪の花を咲かせたと思います。この「ディスクリプション」こそ1%の才能と99%の努力の結晶。関心のある方はぜひ造形学校の芸術学ゼミを受講してみてください。
代ゼミ造形学校「芸術学ゼミ」担当講師 佐々木泰樹
作品A、Bは、どちらもよく似た女性が形づくられている。ゆるやかにカールした髪を肩の長さまで伸ばし、顔だちはとても端整だ。しかし、その持ち物や表情はまるで異なっており、全く異なる雰囲気を醸し出している
。
作品Aでは、頭に冠をのせた高貴な女性が、右手に持つ十字架に寄りかかるようにしてゆったりと佇む様子が形づくられている。女性は左足を手前に引き出し、右腰をわずかにつき上げる。右手の十字架に重心を傾けながら、左肩の方へと体を開き、視線はむかって右に向けられる。この大きな体の動きは、肩にかけられた厚手のマントによって弱められ、落ちついたゆるやかな律動となる。右手はマントをからめながら、巻きついた旗の上から十字架を握っている。この十字架は太股と脚の二箇所で体に固定され、垂直軸をつくる。左肩から足の先まで真っ直ぐに下りるマントがこれを平行し、垂直軸がつくる安定感を強める。左手は、お腹の中心あたりで首が装飾された上品な杯を包みこむように優しく抱えている。そして、右手と左右斜めに呼応しながら、マントの左右の裾がつくる左上がりの線と平行な線を生み出しているのだ。
腰のあたりですぼまり、豊かな尻によって再びふくらんだ衣装は、足先で四方に広がり、艶やかで流れるような衣紋線をつくる。そしてしなやかな律動を感じさせる体の曲線。この作品では落ちついたゆったりした動きが全体から感じられる。さらに、左右、上下がつくる平行線が調和を生み出し、弧を描く左手が象徴するように、見る者を安心させるあたたかなぬくもりを感じさせるのである。女性の表情はとても優しい。その視線の先にあるのは、傷つき絶望の中でじっと耐える右の人物ではないだろうか。
作品Bでは、閉じられた目蓋の上に布を被せ、頭の後できつく結んだ女性が形づくられている。頭をもたげ、武器を手に持つその様子は不気味な印象をも与える。左足を手前に体をむかって左に向け、上半身だけを正面にねじり、左腰をやや上につき上げる。マントは羽織っておらず、体の線が強調されている。そして、ふっくらとしたやわらかな印象は全くなく、すっきりとしておりどこか硬質な印象を与えるのである。右手は肩にかつぐようにして槍を持つ。その手には力が入っているようだ。つき出したひじに沿うようにして、槍はくの字に折れ曲がっている。そこからのぞく柄の鋭さは見る者の心をつきさしそうな程だ。左手は盾であろうか、硬く重く、金属を思わせる縦長の四角い武器を一本一本の指に力をこめてつかむ。脇から離れた腕にも緊張感が感じられる。長袖の衣装は細身に体に吸いつくようで、スカートからのぞくほっそりとした左足が垂直軸をつくる。失われた槍の先や足先ですぼまる衣装、またもたげた頭がこの軸み集まることで、先の鋭い槍や金属質の盾の硬質さと相まって、堅く強張った印象を見る者に与えるのである。
この作品は、動きを抑えることで痛々しい程の鋭さとそこから生まれる静かな緊張感を感じさせる。細かな衣紋線は体に深く刻み込まれていくかのようだ。作品Aとは異なり、作品Bは何かに耐えぬく静かな動きの中に、莫大なエネルギーを感じさせるのである。